稲田保雄とベミ・ファミリー「感覚思考」が2013年3月に初CD化されました。再発盤は2枚組となっており、CD1が1975年に東宝レコードからリリースされたオリジナルアルバム「感覚思考」、CD2が同時期のほぼ同じメンバーによる音源7曲を収録したボーナスディスクです。
恥ずかしながらこのアーティスト、作品の存在は知らず、個人的には待望の再発というわけではないのですが、調べてみると「和プログレッシヴメロトロンロックの傑作」「日本産とは思えない、イタリアン・ロックのようなシンフォニックでドラマチックな盛り上がり」「メロトロン入りの幻のアイテム」「ネットオークションで6ケタ価格の激レア盤」などとあり、これを聴かぬわけにはいきますまい。
大いに誤解を招きそうですが、今回の再発の最大の聴きどころは、ボーナスディスクに収録された「イルカのオキちゃん」である、と断言してしまいましょう。
「イルカのオキちゃん」は、1975年に開催された沖縄国際海洋博覧会のマスコットキャラクター「イルカのオキちゃん」のイメージソングのようで、シングル発売された曲。これが白石冬美の子供向けアニメのテーマソング風な歌唱と、字余り気味の歌詞、アナログシンセによるプログレ風アレンジのすべてがミスマッチかつアンバランスな奇怪な曲なのです。本編の「感覚思考」もなかなかの怪作ですが、イルカのオキちゃんの前にはその存在感さえかすんでしまいそうです。
本編「感覚思考」の方ですが、とくに1曲目の「CLAUDE DEBUSSY『水に映る影』より オリジナルno.1」は20分におよぶ大曲で、多彩なキーボード群により中盤から徐々に盛り上がっていく壮大なシンフォニック組曲となっており、評判に違わぬメロトロン入りプログレの名作。他のプログレ作品の影響を直接的には受けていないようで、1975年リリースとはいえ、スタイルとしてのプログレを追求したというよりは、初期のプログレの名作の多くがそうであったように、ある種の実験、挑戦が奇跡的にこの形に結実したものという印象も受けます。
2曲目「BEETHOVEN ピアノ奏鳴曲8番ハ短調/作品13/『悲愴』32の変奏曲ハ短調 オリジナルno.2」も1曲目と同傾向の大作です。3曲目は、1、2曲目より先に別のメンバーでレコーディングされシングル発売されていた曲で、稲田保雄自身の結構シブいボーカル入りの佳曲。いかにも70年代な感じのドラマか映画のテーマソングにもなってそうな感じで、悪くないです。
ということで、70年代の日本の知られざる名盤としての評価が、今回の再発で一層高まることは間違いないでしょう。
稲田保雄とベミファミリー
・藤井章司(Dr)
・志村昭三(G)
・ONNA?(Pf)
・福田幾太郎(G)
・福田郁次郎(B)
・稲田保雄(Kb=シンセサイザー、モーグ、ハモンドオルガン、メロトロン他)
稲田保雄「感覚思考 -稲田保雄・初期作品集-」(BRIDGE213/214)|BRIDGE INC.(発売元)