美術手帖2012年9月号の奈良美智特集の中で本人が影響を受けたというレコードジャケットが紹介されていますが、9枚のうち3枚がプログレ。少年ナイフなどレコードジャケットも手掛けている奈良美智ですがプログレ系アーティストのものはなかったはずで、原点にプログレのレコードジャケットがあったとは私にとっては意外でした。
美術手帖に掲載されているのは「奈良美智に影響を与えた珠玉のアート レコードジャケットコレクション」と題された見開きの企画。「画集を買うなんて発想のなかった10代の頃、僕は自然と身近にあったレコード・ジャケットから美術的なものを学んでいた気がする」ということで、自ら選んだ9枚についてコメントしています。
その中にヴァシュティ・バニヤン「ジャスト・アナザー・ダイヤモンド・デイ」、ツリーズ「オン・ザ・ショア」、アフィニティ「アフィニティ」とプログレ3作品が選ばれています。音楽的にはプログレど真ん中とはちょっと外れるかもですが、ジャケットアート的にはヒプノシス(ツリーズ)、キーフ(アフィニティ)とズバリ。ヴァシュティ・バニヤンもジャケでの高い評価はあまり見ない気もしますがほほえましくも印象的なイラストであるのは確か。奈良美智の今の作風への直接的影響は当然ながら感じられないものの、ヒプノシスやキーフのある種鑑賞者との間に一線を引く孤高な表現といった意味での近さはあるのかもしれません。
ちなみに、他の6枚は、ザ・バンド「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」、ドノヴァン「H.M.S.ドノヴァン」、ハンブルハムズ「ザ・ニュー・ハンブルハムズ」、ジョン・サイモン「ジョン・サイモン・アルバム」、クリス・スミザー「ドント・イット・ドラッグ・オン」、ミスター・フォックス「ザ・ジプシー」。
さて、2001年以来11年ぶりとなる個展を開催中の奈良美智(来場者がすでに10万人を超えたとのこと)。すべて新作で(併催のコレクション展では横浜美術館所蔵の初期作品20点以上を展示)、巨大ブロンズなどこれまでない技法もそうですが、作風自体が明らかに変わっており、これまで魅力のひとつでもあった「ツンデレ」な感じがかなり後退し、単に角が取れて丸くなったという意味でなく、作品と鑑賞者が歩み寄るような、そんな作品が多いかったように思います。美術手帖のインタビューでも「作品は、それをつくった作家から距離をおけばおくほどオーディエンスに近づき、作品独自の力を発揮するのだと思う」と語っている通り、作者の内面の変化が大きく作風の変化に出ている気がしました。
横浜美術館は9月23日まで、続いて10月3日から青森県立美術館(2013年1月14日まで)、2013年1月26日から熊本市現代美術館(4月14日まで)開催予定。横浜美術館はもともと奈良美智の作品を所蔵しており、併催のコレクション展ではそれら20点以上を見ることができます。会場の案内が悪くて、かなり多くの人がこのコレクション展を見逃しているのではないかと思いますが、新作との比較をする意味でも、合わせてご覧いただくとよいのではないかと思います。